いつものことながら、これは「2次元」の問題である。滑り落ちる物体は、二等辺直角三角形である。等しい二辺の長さはdで、(当然ながら)等しい2つの角は45度である。斜面は地面(水平面)に対し、45度傾いている。この斜面の上に、二等辺直角三角形の斜辺(最も長い辺)が接して、右下方向に重力に従って滑り落ちる状況である。さらに、この二等辺三角形の上には質点が載せてあり、二体問題となっている。二等辺三角形の質量はM、質点の質量はmである。
二等辺三角形の等しい辺(長さd)の一つは水平であり、もう一つの辺は垂直になっている。時間t=0において、水平面の左端の位置を原点Oとし、水平右方向にx軸、垂直下方向にy軸をとる座標系を考える。質点はt=0のとき、(d,0)の位置にある。つまり、三角形の水平な辺の右端においてある。
(1)二等辺三角形の垂直になっている辺を右側から力Fで押し込んだら、滑り落ちずにこの物体は斜面で静止していた。Fの大きさを求めよ。mは質点であり、目の悪い人が「遠く」からみたら、三角形の中に埋没してしまうだろう。その場合、質量M+mの物体が「一つ」あると考えて良い。したがって、X,Y軸方向における力の釣り合いを「一体問題」について考察するだけでよい。鉛直下向きに重力(M+m)gが作用しているのはすぐにわかる。一方で、三角形は斜面から浮いたり、沈み込んだりもしないので、拘束条件として斜面に密着している必要がある。常套手段として、「垂直抗力N」を導入して、この拘束条件に対処する(ちなみに、垂直抗力をNと表すのは、英語でNormal forceというからである)。垂直抗力は摩擦が働く方向、つまり物体の進行方向と垂直の方向にかかる。この問題では、斜面に対し垂直上向きなので、(1,-1)の方向である。これをベクトルで表示すると
N=N√2(1−1)
となる(ただし、|N|=Nとした)。
重力をベクトル表示すると
Fg=(0(M+m)g)
とかける。
三角形を右から押す力をFとすると、
F=(−F0)
となる。ただしF>0とする。
これら3つの合力が0であるというのが「力の釣り合い」であるから
N+Fg+F=0
が利用すべき条件式である。この式を成分で書き下すと
N√2−F=0⋯(x−axis)−N√2+(M+m)g=0⋯(y−axis)
となる。この連立方程式からNを消去すれば、F=(M+m)gであることがわかる。
高校物理では「斜面に垂直な成分と、水平な成分に分解し...」などという説明をよくするが、だいたい「どうして分解するのか?」ということは深く突っ込まずに、「そうするものだから、そうせよ」と強要してくる感じがする。ベクトルを導入することで、そのような分解をしなくてもちゃんと解けることを上では示したつもりである。大事なのは、2次元の問題では、自由度が2つ(つまり独立な基底が2つ)あるわけだから、2次元のベクトルをしっかりと使って、その自由度をフルに利用することで、ちゃんと問題は解けるということである。もちろん、座標変換して高校物理のおすすめの方向に設定し直しても、この問題は解ける。
まず、上図のような座標系の取り方は、高校数学でよく選ぶ座標系と比較すると、「鏡映反転」の関係にある。つまり、そこでx軸とy軸を交換する(x軸をy軸と呼び直し、y軸をx軸と呼び直す)。この「交換」は一次変換で表現でき、それは
RE=(0110)
と表すことができる。
次に、物体と斜面を含む、考えている物理系全体を-45度だけ回転する。回転行列は、今年の東大数学問5で考察した。それを利用すると、この回転をあらわす行列は
R(−π4)=1√2(11−11)
となる。
したがって、我々の座標系から、高校物理おすすめの座標系に移るにはR(−π4)REという一次変換を行えばよい。まずはこの変換の積を計算し、まとめておこう。
R(−π4)RE=1√2(111−1)
この変換を釣り合いの条件式に作用させてみる。
1√2(11−11){N√2(1−1)+(M+m)g(01)−F(10)}=N2(02)+(M+m)g√2(1−1)−F√2(1−1)=0
最後の式のx成分が斜面に水平な成分、y成分が斜面に垂直な成分の力の釣り合いに相当する。ちゃんと、垂直抗力がFの垂直方向の成分と釣り合っていることが求められている。正解は水平方向の成分の釣り合いから得られていることもわかる。
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