(1) 摩擦力は「垂直抗力」に比例して増大する。
(2) 摩擦力は、物体間の「見かけ」の接触面積とは無関係である。
(3) 摩擦力は速度依存性を持たない。
これらの法則は15-18世紀に見出された経験則である。したがって、その適用には範囲があり(適用範囲、適用限界)、これらの法則が当てはまらないものが現代物理において次々と発見されていることを知っている必要がある。たとえば、(3)の速度依存性に関しては、地震学で考えるような大陸のプレート同士の摩擦においては、速度依存性が重要な役割を果たすのではないかと考えられているそうである(たとえばこの参考文献の7ページ)。
法則(1)が、 前回の式(1)に相当する内容であり、すなわち\(F=\mu N\)と表現される高校物理の「公式」に相当する。一方、法則(2)は「物理」の観点から摩擦力と垂直抗力の関係を考える出発点を与える内容である。
接触面が小さな点状の物体の方が、板のような面上の物体よりも摩擦力が小さいように思うが、必ずしもそうはならないというのがこの法則の指摘する事柄である。同じ接触面積でも、滑りやすいものもあれば、滑りにくいものもある。これはどうしてなのか?答えはミクロな観点で見た接触面の構造にある。
どんなに滑らかに磨いた物体表面も、拡大してみるとギザギザで、凸凹している。Wikipediaの画像を借りて、その様子を模式的に表した図が以下である。
Wikipediaの「摩擦力」の説明「二つの物体の真実接触部(矢印)は見かけの接触面のごく一部に過ぎない」より。 |
物理学の「真の目的」は、摩擦係数μをアスペリティの数や面積によって書き直すことにあるだろう。これを「定量的な研究」という。しかし、それは至難の技であることはすぐに理解できるだろう。
一方で、アスペリティの接触面が大きければ大きいほど、摩擦力は増大することは確実に言える。こういう研究を「定性的な研究」という。定性的な研究とは、「物の理」を理解することであるから、物理においてとても大事な研究の方向性である。アスペリティの接触面と摩擦力の関係について、定性的な議論をつぎにしてみたい。
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