2018年3月21日水曜日

摩擦力と垂直抗力(2) アモントン、クーロンの法則

Wikipediaの記述に基づいて、アモントン、クーロンの法則を書き下してみる。ちなみに、この「摩擦力」とは、マクロな物体同士の接触摩擦に対して適用される摩擦力のことであり、流体の粘性や空気抵抗とは異なる種類の摩擦である。英語では、物体同士の摩擦のことを"dry friction"あるいは"sliding friction"といい、流体などに働く摩擦は"viscocity"(粘性)とか、"air resistence"(空気抵抗)とかいって、明確に区別する傾向がある。

(1) 摩擦力は「垂直抗力」に比例して増大する。
(2) 摩擦力は、物体間の「見かけ」の接触面積とは無関係である。
(3) 摩擦力は速度依存性を持たない。

これらの法則は15-18世紀に見出された経験則である。したがって、その適用には範囲があり(適用範囲、適用限界)、これらの法則が当てはまらないものが現代物理において次々と発見されていることを知っている必要がある。たとえば、(3)の速度依存性に関しては、地震学で考えるような大陸のプレート同士の摩擦においては、速度依存性が重要な役割を果たすのではないかと考えられているそうである(たとえばこの参考文献の7ページ)。

法則(1)が、 前回の式(1)に相当する内容であり、すなわち\(F=\mu N\)と表現される高校物理の「公式」に相当する。一方、法則(2)は「物理」の観点から摩擦力と垂直抗力の関係を考える出発点を与える内容である。

接触面が小さな点状の物体の方が、板のような面上の物体よりも摩擦力が小さいように思うが、必ずしもそうはならないというのがこの法則の指摘する事柄である。同じ接触面積でも、滑りやすいものもあれば、滑りにくいものもある。これはどうしてなのか?答えはミクロな観点で見た接触面の構造にある。

どんなに滑らかに磨いた物体表面も、拡大してみるとギザギザで、凸凹している。Wikipediaの画像を借りて、その様子を模式的に表した図が以下である。

Wikipediaの「摩擦力」の説明二つの物体の真実接触部(矢印)は見かけの接触面のごく一部に過ぎない」より。
 つまり、直感的な「接触面積は摩擦力と関連するはずだ」という考え方は、基本的にはあっているものの、ミクロな観点からすると、接触している真の部分は「接触点のあつまり」であり、「肉眼でみたときの接触面」つまり「みかけの接触面」よりも随分小さいのである。この接触点のことをアスペリティと呼ぶ。摩擦力はアスペリティの数(アスペリティーの接触面積の総和)に影響を受けるのは確かだが、肉眼でみる限りは(マクロな観点)アスペリティの様子を見極めることができないため、見かけの面積だけでは摩擦力の強度を決められないのである。したがって、その影響を摩擦係数μに「丸め込む」のである。つまり、摩擦係数μはマクロな視点で定義された「現象論的な量」である。

物理学の「真の目的」は、摩擦係数μをアスペリティの数や面積によって書き直すことにあるだろう。これを「定量的な研究」という。しかし、それは至難の技であることはすぐに理解できるだろう。

一方で、アスペリティの接触面が大きければ大きいほど、摩擦力は増大することは確実に言える。こういう研究を「定性的な研究」という。定性的な研究とは、「物の理」を理解することであるから、物理においてとても大事な研究の方向性である。アスペリティの接触面と摩擦力の関係について、定性的な議論をつぎにしてみたい。

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